「知らないふりもできない」


「気をつけなさい。」

地元の歩きなれた商店街、
散歩している僕にそんな声が降り注いだ。
でもそれは一度きりの出来事だったから
僕の空耳だろう。

『あっ、あの子は……』

数メートル先にいたのは、
いつかの僕が好きだったあの子。
僕は今他人のようにしらんぷりして追い越した。

『あっ、母さんと父さんだ』
『あっ、xxxとoooだ』

今は入院中のはずな父さんや、
授業中のはずなあいつらが反対側から歩いてくる。
それでも僕は、素知らぬ振りですれ違う。

『えっ、あの人スカートがめくれてる』
『げっ、空っぽの車が走ってる』

だけど、僕は知らん顔で歩き続ける。
気がつけば、道の両側に並ぶ店が全て鏡になっていたが、
僕は平然と歩いていく。
案の定、すぐに元の商店街が見えてきた。
けれども鏡の通りから出た時、
外にいたのは自分とそっくりな奴だった。
本物の僕はそこから動けないでいる。
そいつは本当だったら僕が歩くはずの、
元の商店街を歩いていく。

「おいっ?お前っ!」

思わず叫ぶと、外にいる僕は
一度だけ通りから出れない僕をみた。
そしてゆったりと微笑んで、すぐにまた歩きだした。
何事も、なかったかのように……



END