「じぶんのみち」


曲がり角、のぞいてみたら猫がいた。
背筋をピンと伸ばして、置物のように座ってる。
「あら。なにかしら?」
黒い毛並みのその猫は、すましていった。
「まっすぐ、まっすぐ何見てたの?」
「まっすぐ、まっすぐ夢見てたわ」
キラリと開いているその目をしたその猫はいった。
「よく、わからないけど。がんばって」
なんとなくそう答えると、猫はうなずいた。
「あなたも、曲がっちゃダメよ。
 まっすぐ、まっすぐ進んでいきなさい」
そうして猫と別れて、曲がり角は曲がらず
まっすぐ歩いていった。きれいに舗装された
道路には、曲がり角がいっぱいあった。
「おっとっと。ごめんごめん」
何本目かの曲がり角から
今度は、三毛猫が飛び出してきた。
「急いでいたもんでね」
「せっせか、せっせか何を急ぐの?」
尋ねてみると、ピチンとはったひげが動いた。
「せっせか、せっせか夢を追った」
言うが早く猫は再び走り出した。
「おまえも、時間は短いんだ。
 せっせか、せっせか進んでいきな」
捨て台詞を受け取ってから、言われたとおり
せっせかと足早にまっすぐ進んだ。
しばらくすると、道の真ん中に大きな栗の木が
あった。栗の木の先には道があって
栗の木の両脇にも道があった。
栗の木下では白い猫が毛づくろいをしている。
「しっかり、しっかり何を整えてるの?」
「しっかり、しっかり夢を整えてるわ」
ゆるりと優雅に尻尾を動かして猫はいった。
「この木は邪魔だね」
「回り道すればいいのよ」
あたりまえでしょ、と猫はツンとしている。
「でも、曲がりたくないな」
「じゃあ、どうするの?上るの?」
「急がなくちゃいけないんだ」
「じゃあ、回り道したら?」
「でも、舗装されてない道だし」
そこまでいうと、白い猫は不機嫌そうな
顔をした。そして毛づくろいをやめて
歩き出した。栗の木の幹にいつの間にか
小さな穴があいている。その中へ猫は
入っていった。
「あなたも、よく計画しなさい。
 しっかり、しっかり進んでいくのよ」
その声が消えたとたんに、栗の木は消えて
目の前にはまた道が続いている。

いわれたとおりに、まっすぐとせっせかと
しっかりその道を進んでいく。
いわれたとおりに、自分の道を進んでく。
ただただ、いわれたとおり、まっすぐに
せっせかと、しっかりと。


END