「01:さあ、旅に出よう。」


デティちゃんとは、綾乃が持っている馬の
ぬいぐるみのことだ。正確にはユニコーンだ。
デティちゃんは真っ白で、しっぽとたてがみは
ピンクだった。目が大きくキラキラとしていて、
頭にある1本の角は金色だった。
輸入雑貨屋に置かれていたデティちゃんに
綾乃が一目ぼれをして、買ったのだった。

今、デティちゃんは綾乃の部屋の机の上にいる。
綾乃の部屋では特等席だという。
だが、デティちゃんはそこでは満足していない。
デティちゃんにはもっと、別な…相応しい
居場所があることを、デティちゃんは知っていた。

「そういうわけだから、
 俺は自分のいるべき場所へ行く。」

ちなみに、デティちゃんは男の子だ。
デティちゃんは、ある夜ベッドに入る寸前の
綾乃にいきなりそう告げると、
綾乃の部屋にあった水玉額縁の鏡の中へ
門をくぐるように自然に入っていってしまった。

「……。」

ぬいぐるみがしゃべる、そんな話はマンガや
本以外では見たことのない綾乃は
呆然とその姿を見送った。
綾乃は15歳の少女だ。見たものを何でも
信じることはできない。とりあえず、
デティちゃんが消えていった鏡を
じっくりと見つめ、自分の頬を叩いたり
目をマッサージして、今一度デティちゃんが
いたはずの机の上
――もちろんデティちゃんはいない――
そして、デティちゃんが消えていった鏡を見た。

「あーいーうーえーおー。」

鏡の中に異変はない。綾乃自身がうつっており、
本物の綾乃の真似をしていた。
今度はゆっくりと右手をあげ
――鏡は左手を上げ――
それを確認すると、その右手で鏡に触れてみた。

ズッポリ

右手は見事に鏡の中へと入った。
いつもの硬い感触ではなく、水の中へ手を
突っ込んだような感じだった。
が、その驚きと感触を味わうまもなく、綾乃は
ズボズボと鏡の中へと引きずり込まれていった。
もちろん、綾乃はあたわたと抵抗はしていたが
引きずり込もうとする力のほうが強かったのだ。

「旅は道連れ、世に情けなんてないさ。」

テディちゃんのそんな声が鏡の中から響いた。


END