「02:あなたとわたしのために。」


綾乃ちゃんとは、デティの持ち主である、
15歳の人間の少女のことだ。高校1年生だ。
綾乃ちゃんは黒髪で、まっすぐとした長い髪は
かぐや姫みたいだった。綾乃ちゃんの家は
片親で、綾乃ちゃんにはお父さんしかいない。
お父さんはお医者さんで日々忙しく、
家では綾乃ちゃんは夜以外はほとんど独りだった。

今、綾乃ちゃんはデティの背中の上にいる。
テディが言うには、100万円でも
買えない特等席だという。だが、綾乃ちゃんは
嬉しそうでない。むしろ不機嫌きわまりなかった。
デティのことを怒っていることを
デティは知っていた。知っていたが知らん顔をした。

「この世界の真ん中が俺のいるべき場所なんだ。」

デティは綾乃ちゃんをのせて走っていた。
変な世界だ。空と地はあるけど、木や花は
くねくねしたり、くすくすわらったり、
歩き出すのもいた。色はメチャメチャで
パレットの中のようにたくさんの色があった。
地面はチェック模様の場所、水玉模様の場所、
ピンクの砂漠、七色の砂利道など
やかましく変わっていく。

「気持ち悪くなりそう。」

ピンクと青のマダラの花をみて綾乃ちゃんは
小さく嘆いた。デティはかまわず走り続けた。
綾乃ちゃんがデティの後ろに乗っているのは、
帰り道がわからないからだ。
とりあえず、デティについていけばいつか
かえれると思っているのだ。

「やぁ。デティ。デティ。」
「おかえり。デティ。デティ。」

しばらくすると、この変な世界で初めて
別な生き物に出会った。双子の人形だった。
金色の髪のウェーブの波の形さえ似ている。
二人とも手を振って笑顔だった。デティは
二人の前でとまると、挨拶をした。
綾乃ちゃんもそれにならってお辞儀をした。

「かえるの?」

「うん。そのつもりだ。」

「みて。新しいコルセットなの。」

「オシャレだよ。」

双子はそれをきいて、うふふと笑いあった。
綾乃ちゃんは首をかしげながらそれをみた。
『新しいコルセット』を双子が一緒に着ている。
二つの胴体が1つの『新しいコルセット』で
まかれているのだ。

「それじゃあね。また会えるだろうよ」

「またね。デティ。」
「バイバイ。デティ。」

双子と別れて
――綾乃ちゃんもちゃんと手を振って――
綾乃ちゃんはデティに尋ねた。

「あの二人が1つのコルセット
 を二人できているのは何か訳があるの?」
 
「そうさ。あの二人の
 持ち主達は胴がくっついていたのさ。」

「持ち主達が?あの二人はくっついていないの?」

「たぶんね。」

綾乃ちゃんが府に落ちないような顔をすると
デティが横目で見ながら言った。

「でもあの二人は離れないよ。
 彼女達はくっついてなきゃいけないんだ。
 持ち主達がそれを望み、そうしていたから。」
 
綾乃ちゃんは曖昧に返事をして
また、不機嫌な様子で黙り込んだ。
デティはやっぱり平然と走り続けた。


END