「03:泣き方を知らない」


「デティー。」

再び誰かの呼び声がしたのは、双子の人形と
離れてから5分もたたないうちでのことだ。

「やぁ。久しぶり。」

デティが止まって挨拶をしたのは、
目のパッチリとした女の子の人形の前だった。
きれいなドレスをきた、外国風の人形だ。

「デティ、おかえりなさい。
 わたし、近頃毎日水を飲んだりしてるけど
 やっぱり泣けないの。哀しいわ。」

「それが君だからしょうがないんだよ。」

「でも嫌なの。だからまだまだ練習してみるわ。」

「そう…。がんばってね。」

「えぇ。またねデティ。」

小さくお辞儀をすると、女の子の人形は背を向けて
どこかへと歩いていってしまった。
デティもそのまま走り出した。
綾乃ちゃんが今の会話の意味を尋ねたそうに
デティの後ろ頭を見つめた。

「なく人形なんだよ。でも、泣けない。
 けれども彼女は、自分を泣く人形だと思ってるんだ。」

「寝かすと目を閉じて
 …起こすと目を開いて『ママー』ってなく?」

「そう。でも彼女は涙を流す泣く人形だと思ってる。」

「どうして・・・?」

「持ち主がそう思ってたから。」

デティの説明を聞いて、
綾乃ちゃんは納得してうなづいた。

「さっきの双子人形達と同じね?」

デティがその答えに満足するように首を縦にふった。
綾乃ちゃんの顔は見えないが、綾乃ちゃんも
満足しているようだった。


END